データベース技術は現代社会のあらゆる面で利用されており、その中心となっているのが「リレーショナルデータベース」です。リレーショナルデータベースの基本的な概念や、その仕組みを理解した上で、その構造や主な要素を具体的に把握することが、より深い理解への道となります。
この記事では、リレーショナルデータベースの主要な要素と、それらがどのように組み合わさってデータベースの構造を作り出しているのか、また設計の基本についても、初心者向けにわかりやすく解説します。
リレーショナルデータベースを学び始めた方や、基本的な部分を再確認したい方にとって参考になることを願っています。
より初歩的なリレーショナルデータベースの記事を読みたい方は、下記をご覧ください(本記事の前半のような位置づけ)。
リレーショナルデータベースは、その名の通り、関係性を視点にデータを管理します。ここで重要なのは、その関係性を形成する要素がどのように機能しているのか理解することです。
基本的に、リレーショナルデータベースの要素はドメイン、タプル、そしてリレーションの3つと定義することができます。それぞれの要素がどのような役割を果たし、どのように相互作用しているのかについて見ていきましょう。
ドメイン、または定義域は、リレーショナルデータベースにおける最小の要素で、一種のデータタイプを表します。
各属性の可能な値の集合を定義します。たとえば、学生テーブルがあり、それには「学生ID」、「名前」、「年齢」の3つのドメインがあるとしましょう。各ドメインは、その属性が取り得る値の範囲を定義します。
[ 学生ID | 名前 | 年齢 ]
[ ------- | ---- | ---- ]
説明文の「各属性の可能な値の集合を定義」や「その属性が取り得る値の範囲」という表現について、補足します。
たとえば、「年齢」のドメインは0から120までの整数、という具体的な範囲を定義することをイメージしてください。この場合、「年齢」の属性はこの範囲外の値を取ることはできません。これにより、データベース内のデータが一貫性と整合性を保つことができます。
タプルは、データベースにおける「行」や「組」と同義です。それぞれのタプルは、特定のドメインからの値を持つ属性の集合を表現します。つまり、各タプルはデータベース内の一意のエンティティ(例:特定の学生や商品)を表現します。
[ 学生ID | 名前 | 年齢 ]
[ ------- | ---- | ---- ]
[ 1 | Taro | 20 ]
[ 2 | Jiro | 22 ]
[ ... | ... | ... ]
リレーショナル(または「関係」)は、タプルの集合で、それぞれのタプルが同じドメイン(属性)の値を持つことを意味します。※「すべてのレコードは、同じ列を持つ」と解釈すると理解しやすいです。
データベース内のテーブルは1つのリレーショナルを表現します。そして、このリレーショナルを通じて、異なるテーブル間でのデータの関連性が形成されます。
テーブル:学生
[ 学生ID | 名前 | 年齢 ]
[ ------- | ---- | ---- ]
[ 1 | Taro | 20 ]
[ 2 | Jiro | 22 ]
[ ... | ... | ... ]
テーブル:スポーツ
[ スポーツID | スポーツ名 ]
[ --------- | -------- ]
[ 1 | サッカー ]
[ 2 | バスケット ]
[ ... | ... ]
リレーショナルデータベースの基本的な要素を理解したところで、次にその構造について見ていきましょう。リレーショナルデータベースの構造は、空値、主キー、外部キー、整合性制約といった特性によって構成されています。
リレーショナルデータベースの構造の最初の特性は「空値」です。
空値とは、特定の属性の値が不明または存在しない場合に使用される特別なマーカーです。たとえば、学生がどのスポーツをしているかを記録するテーブルがあったとします。スポーツをしていない学生については、そのフィールドは空値になります。
[ 学生ID | 名前 | スポーツ ]
[ ------- | ---- | ------- ]
[ 1 | Taro | サッカー ]
[ 2 | Jiro | NULL ] // Jiroはスポーツをしていないため、スポーツの欄はNULL(空値)となる
[ ... | ... | ... ]
主キーは、テーブル内の各レコードを一意に識別するための1つまたは複数のフィールドです。つまり、主キーの値はテーブル内で重複することがありません(学生IDや社員番号をイメージするとよいです)。
[ 学生ID | 名前 | スポーツ ]
[ ------- | ---- | ------- ]
[ 1 | Taro | サッカー ] // ここで「学生ID」は主キーとなる。各学生は一意のIDを持つ
[ 2 | Jiro | NULL ]
[ ... | ... | ... ]
「外部キー」は、1つのテーブルのレコードが別のテーブルのレコードと関連付けられる要素です。これにより、異なるテーブル間でのデータの連携が可能となります(ExcelのVLOOKUP関数のキーをイメージするとよいです)。
テーブル:学生
[ 学生ID | 名前 | スポーツID ]
[ ------- | ---- | -------- ]
[ 1 | Taro | 1 ] // スポーツIDは外部キーとなり、スポーツテーブルのレコードを参照する
[ 2 | Jiro | NULL ]
[ ... | ... | ... ]
テーブル:スポーツ
[ スポーツID | スポーツ名 ]
[ ------ | ------- ]
[ 1 | サッカー ] // スポーツIDが1のスポーツは「サッカー」であることがわかる
[ 2 | 野球 ]
[ ... | ... ]
整合性制約は、データベース内のデータが一貫性を保つためのルールを定めます。
たとえば、主キーが必ず一意でなければならないというのが1つの制約です。また、外部キーによって参照される値は、その参照先のテーブルに存在する値でなければならないというのも制約の一つです。これにより、データベース内のデータは整理され、一貫性を保つことができます。
リレーショナルデータベースを設計する際には、データの整理と効率的な運用のためのいくつかの基本的な考え方があります。
その中でも、「正規化」と「ERモデル」は特に重要です。これらの概念はデータベース設計の基本を理解する上で欠かせません。この章では、それぞれの概念について簡単に紹介します。どちらも、詳細な説明は別記事で行います。
正規化は、リレーショナルデータベース設計の基本的なプロセスです。
これは、データの重複を避けることでデータの一貫性と効率性を向上させるための手法です。正規化はデータを一定のルールに従って分割します。
これらのルールは「正規形」と呼ばれ、データベース設計者は特定の正規形を選択してデータベースの設計を行います。最も一般的に使用されるのは第1正規形から第3正規形までで、それぞれが特定の条件を満たすよう設計されています。
正規化を適切に行うことで、データの更新、削除、挿入の処理が簡素化され、データの整合性が保たれ、全体としてのデータベースパフォーマンスも改善されます。
非正規化状態のテーブルです。顧客IDと注文IDが混在していることに注目してください。
+----------+---------+
| CustomerID | OrderID |
+----------+---------+
| 1 | 100 |
| 1 | 101 |
| 2 | 102 |
+----------+---------+
第1正規形では、顧客情報と注文情報を別のテーブルに分割します。
Customer Table
+----------+
| CustomerID |
+----------+
| 1 |
| 2 |
+----------+
Order Table
+---------+
| OrderID |
+---------+
| 100 |
| 101 |
| 102 |
+---------+
ERモデル(Entity-Relationship Model)は、リレーショナルデータベース設計の初期段階で使用される強力なツールです。
このモデルはデータベースの全体像を視覚化し、データベース内の「エンティティ(実体)」と「リレーションシップ(関連性)」の間の関係を明確にします。エンティティはデータベース内で表現される具体的な事物や概念を表し、リレーションシップはエンティティ間の関係を意味します。
各エンティティは属性によって詳細化され、これらの属性はエンティティの特性を表します。また、エンティティ間のリレーションシップは、どのようにエンティティが相互に関連しているかを示し、一対一、一対多、多対多といった形で表現されます。
ERモデルを適切に作成することで、設計者はデータベースの全体像を把握し、関連性を明確にすることができ、データベース設計の効率性と正確性を向上させることができます。さらに、ERモデルは非技術者にも理解しやすい視覚的な表現を提供するため、プロジェクトの各ステークホルダーとのコミュニケーションにも貢献します。
エンティティ間のリレーションシップをシンプルに表現します。ここでは顧客と注文の間のリレーションシップを表しています。
[ Customer ] 1 ---- 0..* [ Order ]
この図では、1つの顧客が0以上の注文を持つことを意味しています。また、各エンティティはその属性を持つことも意味しています。
[ Customer ]
|
|--- CustomerID
|--- Name
|--- Address
[ Order ]
|
|--- OrderID
|--- Product
|--- Quantity
リレーショナルデータベースにおいて、データ型は情報をどのように格納し、どのように操作するかを決定する重要な要素です。
適切なデータ型を選択することは、データの整合性を保つために必要であり、データベースのパフォーマンスにも大きな影響を与えます。この章では、主要なデータ型とその選択・利用について解説します。
リレーショナルデータベースにはさまざまなデータ型が存在します。以下に主要なデータ型をいくつか紹介します。難しく見えるかもしれませんが、Excelの書式設定(文字列・数値・日付)と同様の概念です。
数値型は整数や浮動小数点数を格納するためのデータ型です。計算用途に頻繁に使用されます。
文字列型はテキスト情報を格納するためのデータ型です。名前やアドレスなどのユーザー情報を格納するのによく使用されます。
日付/時間型は日付や時間を格納するためのデータ型です。トランザクションのタイムスタンプや期限などを格納するのに使用されます。
ブール型は真偽値(真または偽)を格納するためのデータ型です。特定の条件が満たされているかどうかを判断するのに使われます。
適切なデータ型の選択は、データベースのパフォーマンスと整合性に大きく影響します。数値型を選択すべき場所で文字列型を選択すると、データの扱いが非効率的になったり、不正確な結果を生じたりする可能性があります。
適切なデータ型の選択は、データの性質を理解することから始まります。たとえば、電話番号は実際には数値で構成されていますが、これは計算の対象にならないため、通常は文字列型として扱われます。
データ型の選択は、データベースのパフォーマンスに影響します。大きな数値型や大きな文字列型を不必要に使用すると、ディスクスペースの無駄遣いになるだけでなく、クエリのパフォーマンスにも悪影響を及ぼす可能性があります。
データベース設計時には、将来的なデータの変更を想定することが重要です。あるフィールドが今は小さな整数値しか保持しないかもしれませんが、将来的には大きな数値を保持する可能性があるなら、その点を考慮したデータ型の選択が求められます。
以上のようなポイントを押さえつつ、必要なデータ型を選択し適切に設計することが、リレーショナルデータベースの効果的な運用につながります。
リレーショナルデータベースの操作には主にSQL(Structured Query Language)が使われます。このセクションでは、SQLを用いた基本的なデータ操作について解説します。
データベースに新たなデータを追加するためのSQLコマンドは「INSERT」です。以下はその基本形です。
INSERT INTO Products (Name, Quantity, Price)
VALUES ('Example Product', 100, 50);
このSQLコマンドを実行した後のProductsテーブルの状態は次のようになります。
+----------------+----------+-------+
| Name | Quantity | Price |
+----------------+----------+-------+
| Example Product| 100 | 50 |
+----------------+----------+-------+
既存のデータを更新するためのコマンドは「UPDATE」です。以下にその基本形を紹介します。
UPDATE Products
SET Quantity = 150
WHERE Name = 'Example Product';
このSQLコマンドを実行した後のProductsテーブルの状態は次のようになります。
+----------------+----------+-------+
| Name | Quantity | Price |
+----------------+----------+-------+
| Example Product| 150 | 50 |
+----------------+----------+-------+
データベースからデータを取得するためのSQLコマンドは「SELECT」です。以下はその基本形です。
SELECT Name, Price
FROM Products
WHERE Quantity > 100;
このSQLコマンドを実行した結果として得られるテーブルは次のようになります。
+----------------+-------+
| Name | Price |
+----------------+-------+
| Example Product| 50 |
+----------------+-------+
また、データベースからデータを削除するためのSQLコマンドは「DELETE」です。以下にその基本形を示します。
DELETE FROM Products
WHERE Name = 'Example Product';
このSQLコマンドを実行した後のProductsテーブルの状態は次のようになります。
+------+----------+-------+
| Name | Quantity | Price |
+------+----------+-------+
+------+----------+-------+
SQLは、さまざまなリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)で使われますが、実は、SQL文の書き方はRDBMSごとに異なる場合があります。これは、SQLの歴史によるものです。当記事で紹介したSQL文は、すべてのRDBMSで動作するとは限りませんので、ご了承ください。
この章では、リレーショナルデータベースに関連する用語をいくつかピックアップし、その意味と使用場面について簡単に解説します。リレーショナルモデルの基本的な用語と、SQL言語の基本的な用語に分けて説明します。
データベースに格納される情報の対象で、独立した存在を表します。
エンティティのプロパティや特性を表します。データベースのテーブルにおいては列(カラム)に相当します。
テーブルに格納される一つのデータを表します。テーブルにおいては行(タプル)に相当します。
データベースの構造やデータ型、リレーショナル制約など、データベースの設計を定義したものです。
データベース内のデータに対する高速なアクセスを可能にするためのデータ構造です。
データの冗長性を排除し、データの整合性を保つためのデータベース設計手法です。
各レコードを一意に識別するためのキーです。
他のテーブルとのリレーションを表すキーです。
データの整合性を保つためのルールです。データベースに保存されるデータに対する条件を定義します。
データを表形式で表現するデータモデルです。関連性を持つデータ同士が繋がっていることが特徴です。
データベースに対する命令文のことで、データの抽出や操作を行うために使用します。
データを抽出するためのSQLのコマンドです。
データを追加するためのSQLのコマンドです。
データを更新するためのSQLのコマンドです。
データを削除するためのSQLのコマンドです。
複数のテーブルを結合して新たなテーブルを作成する操作です。
テーブル内の各レコードを一意に識別するためのキーで、1つのテーブルにつき1つしか存在できません。
レコード間の関連性を示すために他のテーブルのプライマリーキーを参照するキーです。このキーによりリレーショナルデータベースの「リレーション」(関連性)が実現されます。
この記事では、「リレーショナルデータベースの構造と主な要素」をテーマに、その基本概念から主要な要素、構造、そしてリレーショナルデータベースの操作方法まで、初心者向けに詳しく解説しました。
リレーショナルデータベースは、社会を支えるさまざまなアプリケーションやシステムの裏側で活躍しています。オンラインショッピング、バンキング、ソーシャルネットワーキング、医療情報システムなど、多くのサービスがリレーショナルデータベースの上に築かれています。
それぞれのサービスがスムーズに動作し価値を提供しているのは、リレーショナルデータベースのような堅牢なデータ管理システムがあるからこそです。この記事を通じて、リレーショナルデータベースの構造とその要素の重要性について理解を得られたのであれば幸いです。
データベース技術は絶えず進化しており、新しい概念や手法が生まれ続けています。これからも、最新の情報や理解しやすい解説をお届けするために、当サイトは常に更新を続けます。ぜひ、またご覧ください。