ER図とは?基本からリレーション記号・書き方まで初心者向けに解説

ER図とはデータベース設計における重要な図法で、主にデータベース内の複数のエンティティの関係性を視覚的に表現する手法です。

ER図には、さまざまな関連知識がありますが、当記事ではER図の基本的な概念、ER図の記法や記号の意味、リレーションシップの種類、そして書き方まで取り上げます。

データベースに詳しくない初心者の方でも理解できるように、ER図の実例も用いて分かりやすく解説します。

ER図とは

この章では、ER図の初歩的な知識である「ER図とは」から、実際にER図を書くメリットまで解説します。まずは、ER図を理解するうえで基本的な内容を習得しましょう。

ER図とは:Entiry-Relationship Diagram

ER図とは、Entity-Relationship Diagramの略で「実体関連図」と訳します。その名の通り、エンティティ(実体、データ)とそれぞれの関連性を表現するための手法です。

基本:データ中心アプローチの図法

ER図はシステム開発の3つのアプローチのうち「データ中心アプローチ」で使われる図法です。データ全体をモデル化して、データベースを設計する工程で、実体(データ)とそれぞれの関連性を表現するために効果的です。

データモデルの記述にも使用

ER図はデータ中心アプローチの図法としてだけではなく、論理データモデルや物理データモデルを視覚化するために用いられることもあります。つまり、データベースに必須となる「データ」とそれぞれの「関連性」を表現するために、ER図が効果的なのです。

ER図を書くメリット

ER図を書くメリットには次のようなものがあります。

コミュニケーションを促進

ER図は複雑なデータ構造を視覚的に表現することで、設計者やチームメンバー間のコミュニケーションを促進します。ER図で明確に表現することで、誤解を防ぎ効率的な情報共有を実現します。

設計上の問題を特定

開発前の段階でER図を用いることにより、設計上の潜在的な問題を早期に特定し、修正することが可能です。これはプロジェクトの遅延や停滞、トラブルを防ぐためコスト削減にも繋がります。

システム要件を明確化

ER図はシステムの要件を明確にし、将来の拡張や変更の計画を立てやすくします。より柔軟で効果的なデータベース設計が可能になります。

ER図の記法

ER図を書くための記法にはいくつもの種類が存在します。記法によって、使われる記号も異なりますが、本質的な目的や表現自体は変わりません。この章では、ER図の主要な記法である「IE記法」と「IDEF1X」について紹介します。

IE記法

IE記法(Information Engineering Method)の特徴は直感性に優れているという点です。

複雑なデータモデルの概念において、IE記法はシンプルで理解しやすい表現方法を採用しています。リレーションシップでは、「鳥の足」のような記号を使うことで、1対多や多対多の関係を表現します。

一方で、次の節で紹介するIDEF1X記法と比べ、細部まで表現し辛いという特徴もあります。

IDEF1X記法

IDEF1X記法(Integrated DEFinition for Data Modeling)は、データモデルをより詳細かつ厳密に表現するための方法です。

この記法では、エンティティ間のリレーションシップを●や数字で表現し、リレーションシップのカーディナリティ(1対1、1対多、多対多)も詳細に記述されます。そのため、複雑なデータベースの構造や関連性を細かく理解するのに適しています。

一方、IE記法と比較して、より詳細な記述が求められるため直感的に理解しづらい特徴があります。


学習者や初級者は、まずIE記法から始めればよいでしょう。どちらも本質は一緒ですが、IE記法は理解しやすくまたインターネット上の情報も豊富です。

より詳細なデータベース設計が必要になった際に、IDEF1X記法を使えば支障はありません。

ER図の記号や図形

ER図では、さまざまな記号・図形が使われます。基本となるのはエンティティとアトリビュート、リレーションシップ、カーティナリティの4つです。この章で、実際のER図を用いて説明します。

エンティティ

エンティティはER図の中心的な要素であり、データベース内で扱われる具体的な「対象物」や「カテゴリ」を表します。

データベースはデータの格納庫であり、そのデータの分類や関連性を設計・管理することが主な役割です。

エンティティは、個々のデータ項目ではなく、データの集合や種類を示すもので、ER図における基本的な構造単位です。たとえば、「顧客」や「注文」など、データベース内のさまざまな要素がエンティティとして表現されます。

アトリビュート

アトリビュートは、エンティティの個々の特性や属性を表すER図の重要な要素です。

データベースにおける「アトリビュート」は、エンティティを具体的に定義するデータの項目を指します。たとえば、「顧客」エンティティのアトリビュートには「名前」、「住所」、「メールアドレス」などが含まれます。

これらのアトリビュートは、エンティティの特徴を明確にし、データベース内でのエンティティの役割を詳細に表現します。

リレーションシップ

リレーションシップはER図において、異なるエンティティ間の関連性を表す中心的な要素です。

リレーションシップを図示することで、データベース内でのデータの相互作用や流れ、関連性が明確になります。

たとえば、「顧客」エンティティと「注文」エンティティ間の「注文する」というリレーションシップは、1人の顧客が複数の注文を持ち得る一方で、各注文は特定の1人の顧客に属することを表現します。

このようにリレーションシップは、データベースの論理的構造を形成し、データ間の関係性を具体的に表現します。

カーディナリティ

リレーションシップの末端には、「1」や「多」を表す記号が用いられます。IE記法では、「鳥の足」のような記号が多を意味しています。

鳥の足や「○」、「|」の記号によって、意味が異なります。見本は次章で紹介します。

記号意味
鳥の足
ゼロ
イチ
IE記法

1対1・1対多・多対多のリレーションシップ

データベースの設計では、異なるエンティティがどのような関係性を持つのかが極めて重要です。前章で用いた「顧客」と「注文」が1対多の関係で成り立っているように、○対○などの表現はER図にとって欠かせません。

この章では、1対1、1対多、多対多のリレーションシップの表現方法について説明します(IE記法)。

1対1のリレーションシップ

1対1のリレーションシップは、1つのエンティティが別のエンティティと1対1で関連している場合に使用されます。

たとえば、「従業員」とそれに関連する「従業員ID」の関係です。ここでは、各従業員はユニークなIDを持ち、そのIDは1人の従業員にのみ割り当てられます。

1対多のリレーションシップ

1対多のリレーションシップは、1つのエンティティが別のエンティティと1対多で関連している場合に使用されます。

「顧客」と「注文」の関係がこれに該当します。つまり、1人の顧客が複数の注文を行う可能性があり、各注文は1人の顧客に属します。

多対多のリレーションシップ

多対多のリレーションシップは、1つのエンティティが別のエンティティと多対多で関連している場合に使用されます。

「学生」と「授業」の関係が一例です。1人の学生が複数の授業を受講でき、1つの授業には複数の学生が参加する可能性があります。

リレーションシップの詳細化

基本的なリレーションシップの表現方法は前記の通りですが、実際のバリエーションはもう少し豊富です。

たとえば、1対1の関係であっても、「1対1以上」や「0対1以上」、または対象の数値があいまいな場合もあります。それぞれの記述方法についても紹介しておきます。

1対1以上のリレーションシップ

0対1以上のリレーションシップ

0または1以上対0以上のリレーションシップ

ER図の読み方

ER図の基本や記号、図形の意味、そしてリレーションシップについて理解していると、おおまかにER図を読むことができます。実績や経験がなければデータベース設計までイメージすることは難しいのですが、この章でER図を読むための知識を簡単に説明します。

ER図の全体像の理解

ER図の全体像を理解するには、エンティティ、アトリビュート、リレーションシップが互いにどのように関連しているかを把握することが重要です。

ER図を読む際には、まずエンティティ間のリレーションシップの構造を確認し、次に各エンティティのアトリビュートがどのようにデータを表現しているかを理解します。

全体の流れや構造を理解することで、データベースの論理的な設計方針が明確になります。

エンティティの分析

各エンティティの分析では、エンティティがどのような情報を持ち、どのように他のエンティティと関連しているかを重視します。

エンティティのアトリビュートを分析することで、そのエンティティが持つデータの種類や特徴を理解し、データベース内での役割を把握することができます。

リレーションシップの分析

リレーションシップの分析は、エンティティ間の関係の性質を理解するために重要です。

1対1、1対多、多対多などのリレーションシップのタイプ(カーディナリティ)を識別し、これらの関係がデータベース全体の機能や性能にどのように影響するかを分析します。

リレーションシップの特性を把握することで、より複雑なデータ構造を理解することができます。

ER図の書き方

この章では、ER図を書くためのプロセスを紹介します。実際の設計では、データベースの規模や用途によって必要なプロセスや深度は異なりますが、おおまかに下記のようなプロセスを踏みます。

要件定義

まずはER図を書くうえで土台となる要件を定義します。

目的と範囲の特定

データベースを設計する目的と、その範囲を明確にします。これには、データベースが解決しようとする問題やニーズの特定が含まれます。

ステークホルダーとのコミュニケーション

関係するステークホルダー(利用者、管理者など)とのコミュニケーションを通じて、要件を整理し明確にします。

データベースは多くの部門で利用することが一般的です。ステークホルダーとのコミュニケーションは、必ずデータベース設計の初期から重ねておくことが重要です。

エンティティの特定

ER図の要件定義のあとは、ER図の主要な要素であるエンティティを特定します。つまり、データベース内で扱われる具体的な対象物やカテゴリの選定です。

たとえば、「学科」や「教師」、「授業」などです。そして各エンティティ間の基本的な関係性を設計します。

この時点では、1対多や多対多など、おおまかに定義しておきます。

アトリビュートの特定

各エンティティに必要な情報(アトリビュート)を特定します。たとえば、学科エンティティには学科ID、学科名、学科長IDなどが含まれます。

そして、アトリビュートのデータ型や制約を定義し、エンティティに具体的にどのようなデータを持たせるかを設計します。

リレーションシップの整理

各エンティティのアトリビュートを定義したあとは、エンティティ間のリレーションシップ(1対1、1対多、多対多)を詳細化し、それぞれの関係性を明確にします。

このようにデータベースの全体構造を視覚的に整理し、調整します。

あとがき

今回は、データ中心アプローチの図法、また論理・物理データモデルの設計で使われるER図について、基本や記号・図形の意味、リレーションや書き方について記事にしました。

リレーショナルデータベース設計において、ER図を利用して情報の流れと構造を可視化することは、理論的理解と実務的応用の両方において不可欠です。

データベースを学ぶ学生からプロの設計者まで、ER図は複雑なデータ構造を分かりやすく表現し、効率的な設計プロセスを支援するための強力なツールとなります。

Analytics沖縄

データサイエンス・機械学習・ディープラーニングを本格的に研究するフリーランスエンジニア。 「Google データアナリティクス プロフェッショナル」の認定証を取得済み。 この分野は専門知識がなければ理解し辛い情報が多いのですが、当サイトでは初学者も意識して発信していきますので、ご関心があればぜひご覧ください。

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