原油の価格が下がれば、ガソリンも同じように安くなるのでしょうか。沖縄と全国のデータを比べると、原油と店頭価格がよく連動していた時期と、そうではない時期があります。円相場による輸入価格の変化も含め、2015年1月から2026年8月までの140か月を確認します。
今回の分析では、2015〜2021年の原油輸入価格とガソリン価格に、月ごとの値動きの強い正の相関が見られました。ただし、2022年以降は同じ関係が続いていません。原油・為替・政策・地域差を順に確認することが、沖縄のガソリン価格を読む手がかりになります。
原油の輸入価格と店頭価格の違い
ガソリンは、原油を精製してつくられる石油製品の一つです。輸入した原油がそのまま給油所で売られるわけではなく、精製や国内輸送、販売の費用、税金なども店頭価格に関わります。
この記事で使う原油の輸入価格は、財務省の貿易統計から計算した、日本全体の平均単価です。「原油及び粗油」の輸入金額を輸入量で割り、1L当たりの円価格にそろえました。海外からの運賃・保険料を含むCIF価格で、関税などは含みません。ニュースで見かけるWTIやドバイ原油の市場価格とは、対象や計上時点が異なります。
比較する3つのデータ
- 原油の輸入価格
- 日本全体の「原油及び粗油」の輸入金額÷輸入量です。沖縄向けの調達価格を直接示すものではありません。
- ドル・円相場
- 日本銀行が公表する東京市場・17時時点の月中平均です。1ドル当たりの円の数が増えると、円安方向の動きです。
- ガソリンの店頭価格
- 資源エネルギー庁のレギュラー・現金・税込価格です。各月の調査日を単純平均し、沖縄と全国を比べます。

原油と為替は月次、ガソリンは週次で公表されるため、比較の間隔を月単位にそろえています。原油データがそろう最後の月は2026年8月です。同月の原油輸入価格は102.7円/L、ドル・円相場は1ドル158.81円、沖縄のガソリン価格は178.8円/Lでした。
この円建ての原油輸入価格には、すでに為替の影響が含まれています。さらにドル・円相場を掛けると、為替を二重に織り込むことになります。
円安による、原油の円換算額の押し上げ
ドルでの価格が同じでも、円安になると円で支払う金額は増えます。例えば、運賃・保険料込みの原油単価を1L当たり0.50ドルで固定すると、1ドル120円なら60円、150円なら75円です。これは為替換算の仕組みを示す計算例で、実際の取引を再現したものではありません。
実際のデータでは、2022年7月から10月にかけて、原油輸入価格は99.6円/Lから96.8円/Lへ、2.9%下がりました。同じ期間にドル・円相場は1ドル136.70円から147.16円となり、円安方向に7.7%動いています。

円建てCIF価格を月平均のドル・円相場で割った「ドル参考換算値」は、この間に9.8%下がります。円建てでの下落率2.9%よりも大きく、ドル換算値が下がっても、円安が重なると円で見た下落幅は小さくなるという関係を確認できます。
ただし、この参考換算値は、実際のドル建て取引価格ではありません。貿易統計では税関公示の為替相場を使うため、日本銀行の同じ月の平均とは一致しません。油種や仕入先、運賃、契約時点の違いもあるため、この計算だけで「円安が店頭価格を何円押し上げたか」までは分かりません。
2015〜2021年に見られる、原油とガソリンの連動
まず、全国的な燃料油価格の激変緩和措置が始まる前の2015〜2021年を確認します。価格の高さそのものではなく、毎月「前月から何円動いたか」を比べました。長期的に二つの価格が上がっているだけで、関係を強く見積もることを避けるためです。
2015年2月〜2021年12月の83か月では、原油輸入価格の前月差とガソリン価格の前月差の相関係数は、沖縄が0.87、全国が0.87でした。原油が上がる月にはガソリンも上がり、原油が下がる月にはガソリンも下がる傾向が見られます。
相関係数の読み方
相関係数は、二つの数値がどの程度一緒に動くかを表す指標です。+1に近いほど同じ方向、−1に近いほど逆方向に動く傾向があります。0に近い値は、直線的な関係が弱いことを示します。0.87という値は「値動きの87%が原油による」という意味ではありません。

一例として、2020年1月から5月には原油輸入価格が48.4円/Lから16.8円/Lへ、31.6円下がりました。同じ期間に沖縄のガソリン価格は158.5円/Lから128.9円/Lへ、29.6円下がっています。全国も151.1円/Lから125.7円/Lへ、25.3円の下落でした。方向は重なっていますが、下落額や下落率が同じというわけではありません。
月単位で確認できる時間差
原油価格の変化が遅れて店頭に表れる可能性もあるため、原油の前月差と、その月・翌月・翌々月のガソリンの前月差を比較しました。比較するガソリン側の期間は、すべて2015年4月〜2021年12月の81か月です。
| ガソリン側の時点 | 沖縄 | 全国 |
|---|---|---|
| 同じ月 | 0.86 | 0.87 |
| 翌月 | 0.39 | 0.37 |
| 翌々月 | −0.02 | 0.00 |
今回の比較では、同じ月の関係が最も強くなりました。ただし、これは「価格が即日反映される」という意味ではありません。CIF価格は、輸送を経て輸入された段階の月平均単価です。さらに、週次の店頭価格も月平均にしているため、月の中の数週間のずれは捉えきれません。市場での原油価格の変化から、沖縄の店頭価格まで何日かかるかは、今回のデータでは特定できません。
2022年以降に変わる、原油と店頭価格の関係
2022年2月〜2026年8月の55か月では、同じ月の前月差の相関係数は、沖縄が−0.10、全国が0.02でした。図3の下段でも、原油の変化に対してガソリンが一定の方向・幅で動く関係は、上段ほど明確ではありません。
2026年の大きな変動を外し、2022年2月〜2025年12月の47か月だけに限っても、沖縄は0.15、全国は0.10です。関係の弱まりは、2026年の値動きだけで生じているわけではありません。
この期間には、原油や為替の変化に加え、店頭価格の上昇を抑える支援策の導入・変更が重なっています。原油と店頭価格を比べる際の主な区切りは、次のとおりです。
| 時点 | 主な変更 |
|---|---|
| 2022年1月27日 | 燃料油価格の激変緩和措置の開始 |
| 2025年5月22日 | ガソリン10円/Lを目指す定額引下げ措置への移行 |
| 2025年11〜12月 | 補助単価の段階的拡充と、12月31日のガソリン暫定税率の廃止 |
| 2026年3月19日 | 全国平均小売価格を170円/L程度に抑える緊急的激変緩和措置の開始 |
出典:資源エネルギー庁「燃料油価格に関する支援策の推移」「補助金の段階的拡充について」「緊急的激変緩和措置について」。期間内の全変更を網羅した表ではありません。
例えば、2026年7月から8月には原油輸入価格が13.7円/L下がる一方、沖縄のガソリンは0.37円/L上がり、全国はほぼ横ばいでした。原油価格だけを使った説明では、この動きは捉えられません。
補助制度は原油高による価格上昇を抑える仕組みですが、今回の分析は週ごとの支給単価を組み込んだ推計ではありません。したがって、相関が弱くなった分をすべて補助金の効果とみなすことや、補助がなかった場合の沖縄の価格を算出することはできません。制度の詳しい効果を調べるには、別途、支給単価と適用期間をそろえた分析が必要です。
沖縄の価格を読むための、全国平均との差の確認
原油の輸入価格とドル・円相場は、日本全体に共通する指標です。そのため、全国のガソリン価格と沖縄のガソリン価格の違いまで、その二つだけで説明することはできません。

2026年8月の月平均では、沖縄が178.82円/L、全国が169.98円/Lで、沖縄のほうが8.84円高くなっています。価格差は期間を通じて一定ではなく、2015年には沖縄が全国を下回る月もありました。
一方、沖縄と全国のガソリン価格の前月差どうしの相関係数は、2015年2月〜2021年12月が0.95、2022年2月〜2026年8月が0.92です。全国とおおむね同じ方向へ動きながら、価格の水準や変化の幅には沖縄との違いが残ることが分かります。
原油や円相場のニュースを沖縄の価格に結び付ける際は、まず円建ての原油輸入価格を確認し、次に補助制度や税制変更の時期を重ね、最後に全国平均との差を見ます。この順序で確認すると、全国に共通する変化と、地域差として残る部分を分けて考えられます。
ただし、図4の差額は輸送費や給油所の利益そのものではありません。本島・離島の輸送、販売量、仕入れ条件、地域ごとの税・支援措置などを切り分けた値でもありません。週ごとの最新価格や地域別の公表値は、沖縄のガソリン価格|週次データで確認できます。
この記事の分析について
分析に用いた資料
- 財務省「貿易統計・主要商品別月別輸入」:世界からの「原油及び粗油」、概況品コード30301の数量(kL)・金額(千円)。使用ファイル d61ma.csv。公表ページ
- 日本銀行「主要時系列統計データ表・為替相場(月次)」:東京市場ドル・円スポット17時時点/月中平均、系列FM08’FXERM07。使用ファイル fm08_m_1.csv。公表データ
- 資源エネルギー庁「給油所小売価格調査」:レギュラー、沖縄・全国、現金・消費税込み価格。2026年10月7日公表の長期推移ファイル261007s5.xlsx、分析対象内の591調査日。公表ページ
- 資源エネルギー庁の制度資料:支援策の推移、補助金の段階的拡充、2026年3月の緊急的激変緩和措置
- 統計・価格形成の定義:財務省「貿易統計・よくある質問」「外国為替相場」、JOGMEC「原油・石油・ガソリンは何が違う?」
- 共通の分析期間:2015年1月〜2026年8月の140か月/資料確認日:2026年10月11日
- 貿易統計の集計段階:2024年以前は確定値、2025年は確々報値、2026年1〜7月は確報値、同年8月は9桁速報値
原油価格の下落・回復を含む複数年と、2022年以降の制度変更を同じ月次系列で比較するため、2015年からの期間を採用しました。図表は各公表資料を当サイトで加工・集計したものです。将来の改訂によって、値が変わる場合があります。
分析に用いた手法
- 輸入単価の算出:輸入金額(千円)÷輸入量(kL)によるCIF単価(円/L)の算出。千円とkLの換算係数が相殺することの確認
- 月次への集計:同じ月に属する3〜5回のガソリン調査値の単純平均。調査のない週の補間、日数加重、販売量加重を行わない集計
- 記述統計・時系列比較:140か月の推移、選択した2時点の差・変化率、沖縄から全国を引いた価格差の算出
- 為替換算の参考計算:円建てCIF÷月平均ドル円によるドル参考換算値の算出と、2022年7月=100とする指数化。実際のドル建て取引価格や純粋な為替効果とは区別した比較
- 相関分析:価格の前月差を用いたPearsonの相関係数の算出。2015年2月〜2021年12月の83組、2022年2月〜2026年8月の55組の期間別比較。2026年を除いた47組による追加確認
- 時間差の比較:ガソリン側を2015年4月〜2021年12月の81か月に固定した、同月・1か月前・2か月前の原油前月差との相関の比較
- 検算・表示:元Excelと抽出済み週次値の照合、共通期間の欠損・重複の確認。丸め前の値による計算、価格は原則小数第1位・必要箇所は第2位、相関係数は小数第2位での表示
季節調整や物価全体の上昇を除く調整は行っていません。相関は観察された関係の整理として使用し、統計的有意性の判定、因果推論、将来予測には用いていません。集計・検算・図表作成の使用ツールはPythonです。
この分析では断定できないこと
原油価格と為替のそれぞれが、沖縄のガソリン価格を何円変えたかは推定していません。円建てCIFには為替がすでに反映され、仕入先や油種構成、運賃・保険料、契約や通関の時点も変化するためです。原油1Lとガソリン1Lをそのまま対応させた原価計算もできません。
価格反映までの日数、値上げと値下げの速さの違い、補助金がなかった場合の価格、事業者の利益、沖縄と全国の価格差の原因も、今回の系列だけでは断定できません。全国平均には沖縄も含まれます。また、沖縄の県単位の価格から、本島と離島それぞれの事情を読み取ることはできません。
